2008年1月19日土曜日

改憲反対共同声明

 「改憲反対共同声明」への意見表明と賛同署名のお願い

 現下の改憲攻撃との闘いに資するため、仲間の皆さんに、当『年誌』会員5人(旭凡太郎、志摩玲介、流広志、畑中文治、羽山太郎)の発意による共同声明への、賛同署名をお願いします。本文の趣旨にもありますように、この闘いの観点を整え、意見交換を深め団結を強める基礎的な素材となれば、望外の喜びとするところです。
 なお、趣旨に賛同いただけるのであれば、補足・追加意見を公表する機会を『年誌』次号(第9号)で提供しますので、意見文書を添えて、その旨お申し越しください。意見表明の意思は、署名に*を付すことで表示いたします。

 改憲反対共同声明

 Ⅰ 「明文改憲クーデタ」は打ち砕かれた

 7月23日の参議院選挙は日本労働者・人民の歴史的な投票行動となった。消えた年金、政治とカネ、閣僚の失言など安倍政権への有権者の危機感がうずまいた結果、自民党は惨敗し、民主党は政権交代を射程にいれた。さらに9月、国政統括力をなくした安倍が政権を投げだし、自民党の派閥談合による福田・選挙管理内閣があわただしく発足した。
 政局の流動化は憲法闘争の条件をがらりと変化させている。わたしたちは、この時期の特徴をつかみとり改憲阻止の運動を前進させるために共同声明を発表することにした。
 周知のように、参院自民党は改選議席61から37へと転落し(非改選46)、公明党10(非改選11)をあわせてた与党全体で104議席をおおきく下回った。衆院でたとえ憲法改定がが議決されても参院で否決される「ねじれ国会」の構造ができあがり、明文改憲による強行突破が困難になったのである。参院に解散はなく、3年後改選で自公57から75以上の多数派に転じる現実性はとぼしいから、民主党などが優位する参院運営から6年間はつづくことになる。
 こうして、自民党憲法改正草案、強行採決による教育基本法改悪、国民投票法とつづいてきた「明文改憲クーデタ」の流れは打ち砕かれ、「美しい国」流のロマンチックなイデオロギー政治への都市サラリーマン層の「反乱」、小泉「構造改革」―郵政民営化の歪みをしわよせされた農民層ら地方の「反乱」、これから大きな力をえていた。
 だが、この勝利に安堵することはできない。明文改憲のもくろみが当面遠のいた反面、解釈改憲にドライブがかかる可能性が強まるからである。じっさい、米国主導の中東侵略戦争に呼応した米軍再編は日米安保条約をテコに沖縄などで顕著だし、自衛隊の海外派兵と米軍支援も続行されている。秋期国会では期限切れのせまる「テロ特措法」にかわる新法案上程が焦点化している。これらは9条改憲阻止の憲法闘争として重要である。

 Ⅱ 9条改憲反対の声をさらに強めよう

 ところで、今後の憲法闘争を小沢民主党に期待していいだろうか。たしかに、参院選で当選した民主党60人の改選議員のうち41パーセントが改憲反対で賛成派29%を上回った(『朝日』8月7日)。
 これらを押し上げた力は、「構造改革」による地方切り捨てに直面した小規模農家や、雇用労働者の三分の一をしめる非正規雇用のワーキングプアやフリーターなど、生存権(憲法第25条)や幸福追求権(第13条)を脅かされた格差社会下層の怒りが充満していたことにある。一人区行脚で小沢が訴えてきた個別農家保障制度や子供手当などは魅力的に映っただろうが、財源の裏付けが不明で実効性は疑問である。社会的下層を野放しの市場競争のいけにえにする新自由主義への規制がなお明瞭ではないのだ。
 わすれてはならないのは民主党が「論憲」をかかげる潜在的な改憲勢力だという事実である。参院選では表面化しなかったが、小沢らの国連外交重視の姿勢は、集団的自衛権(国連憲章51条)を容認し「平和憲法」に抵触する危険性がおおきい。政権交代と二大政党制をめざす民主党が小沢の決断力と突破力とに依存し、福田の政策的すりより(機能的連立)や衆院協議解散には応じないものの、アメリカ大統領選挙をにらんで死に体となったブッシュ共和党政権に距離をおくかぎりで「テロ特措法」に反対するのだとすれば、その問題性をみすごすことはできない。
 護憲―改憲阻止派の出口はどこにあるのか。それは、たとえば「従軍慰安婦」問題について日本政府の公式の謝罪をもとめるフィリピン、台湾、韓国、香港などの対日非難決議をうけとめ、戦後憲法理念にふさわしい歴史認識をあらたに構築していくことである。日本の戦争・戦後責任を追求するアジア民衆の対日請求権・裁判権を支持し、互恵と共生をめざす国際的な潮流とむすびあった反改憲運動をつくりあげていくことは緊急の課題といえよう。運動の発展を阻害する内ゲバ思想は問題外である。

 Ⅲ 人民の社会的憲法のための問題群

 既存の護憲運動は、第9条を一国平和主義的に擁護するにとどまり、一連の改憲策動への抵抗を弱めてきた。また、象徴天皇条項を放置して主権在民意識のほりくずしにたいする反撃を不十分にしてきた。わたしたちは、人民の社会的憲法をたたかいとる闘憲の観点からひろく議論をおこすためにいくつかの問題群を提示しておきたい。
 第一に、平和主義の発展方向について、改憲攻撃の標的にされてきた9条は、旧日本帝国によるアジア侵略戦争への反省として当然の条項である。だが、冷戦以前に制定された日本国憲法がその後の日米同盟のなかで閉塞させられてきたのも事実である。「日本の平和」は、沖縄への在日米軍基地の集中、韓国やフィリピンなど周辺諸国による軍事基地の肩代わりによって維持されてきた。こうした戦後体制を「9条を世界へ」の方向で打開するうえで、親米好戦外交から非同盟非戦外交への転換が不可欠ではないか。
 第二に、新しい社会運動に対応する人権概念の拡張について。この分野のテーマはいくつかあるが、一例として環境権は、先日の中越沖地震による柏崎刈羽原発被災をひくまでもなく、地域社会さらに地球規模での共同利益の社会的享有を守る権利として重要である。また先住権は、日本列島住民のばあい、先住民族としてのアイヌ、琉球自身による政治的分離の権利、自治権の具体化としての民族議席の新設など、当該諸民族の独自の言語・文化・信仰を尊重し、自己決定権の確立を支援する視点が重要ではないか。
 第三に、旧「社会主義」憲法の反省にかんして、1930年代にその原型がつくられた「社会主義」憲法は、「憲法の階級性」や規範優位説(権利の劣位)を強調して、党=国家権力の専断が人びとの自発性を抑圧するシステムを固定化した。近代憲法の目的価値としての人権、およびそれを保証する手段としての立憲政治にあらためて光を当て、抵抗権・革命権をふくむ市民権と階級性との関連を再構成する必要があるのではないか。それは、トータルでラディカルな社会変革運動において、賃労働者階級とさまざまな社会グループとの協力をより深く意義づけることにつながるだろう。

 Ⅳ わたしたちの主張

 わたしたちは労働者・市民の立場から反改憲運動を発展させていくために、当面つぎの三点を主張する。
 改憲攻撃の要は9条改憲にあり、政治過程の動向を注視しながら解釈・明文のいかんを問わずあらゆる改憲のもくろみに反対する。今秋期、「テロ特措法」のいかなる継続をも許さず、アジア民衆とともにイラクやインド洋に展開する自衛隊の即時撤退を要求する。
 また、市場原理主義のもたらす格差社会下層とくに若者層の流動化に着目し、人間として生きる権利、働く権利を実質化していく底辺からの運動を支援する。それによって、グローバル資本の搾取と支配に抵抗する全世界の民衆のたたかいと合流する。
 憲法闘争固有の諸問題をめぐり運動主体の歴史的な経験の集約と整理をうながす議論をつみかさね、わたしたちの立ち位置より明確にする努力をおこなう。
 心ある多くの人びとの本声明への賛同を願っている。

 賛同人(順不同・敬称略)
 花園紀男・青山到・山中明・北原啓史・人類一志・相模潤・坂本一馬・小山明・佐藤保・北村裕・大杉仁一郎・早川礼二・広澤範治・深沢・蔵田計成・樋口篤三・白井朗・山本健一 (マルクス主義研究者)・北山峻
                             (2008年1月19日現在)